ビアブロート奮闘記
- Shinji Hirose
- 8月28日
- 読了時間: 4分
ビアブロートはビールパン、粉をこねるのに水の代わりにビールを使って生地にするパンです。ドイツパンの中では一般的なパンなので6月に一度試作して7月からの商品メニューに加えました。
6月の試作時にはビアブロートは”こういうもの”なのかと理解したつもりでしたが7月になり何度焼いても”パンの膨らみが出ない”ことに疑問を持ち始めました。

右の写真は7月のパンですが膨らみはありますが全体に小さい、中にはパンの内部の発酵も進まず”ういろ状”になるものもありました。
水をビールに変えただけなのに何が起こっているのだろうと悩む日々でした。
この問題を解くには二つのことをクリアーにする必要があります。
1.生地は酵母が増殖する環境か
2.グルテンは分解されていないか
ビールには様々な種類があり詳細に説明する知識はありませんが当初は市販の大手の缶入り生ビールを使っていました。ビール酵母の発酵によって生み出されるアルコールと芳香成分によってビールは成り立っていますが酵母は役割が終わり製品になる段階では”じゃまもの”になります。加熱殺菌や濾過によって消されます。濾過によって酵母が除去されたものは加熱されないで缶に詰められ”生ビール”として販売されます。高校生のYさんは”じゃまもの”を濾過した後さらに何かが加えられるとしても不思議ではないと言います。つまり水の代わりにビールを使うことによってパン酵母が生きられない環境になっている可能性があるということになります。Yさんの勧めにより瓶内二次発酵ビールを使うことにしました。瓶内二次発酵というのは一次発酵を終えたビールを瓶詰めした後、栓をする前に酵母を追加し瓶内で二次発酵させるもので酵母が生きています。これを使えばパン酵母が増殖する環境は整っています。
ビール酵母の発酵というのはビール酵母がブドウ糖やアミノ酸を食べてアルコールや芳香物質を排出するサイクルですがブドウ糖やアミノ酸を豊富に与えるためにビール製造工程で”マッシング”というプロセスがあります。デンプンはアミラーゼによって最終的にブドウ糖に、たんぱく質はプロテアーゼによってアミノ酸に分解され酵母菌のエサになります。
パン生地中のグルテンがプロテアーゼによって分解され成形中に生地が切れる現象は”酒粕パン”で過去に経験しており今回も同様の現象が見られました。
プロテアーゼ対策は難問だと思っていたところYさんが言うには”プロテアーゼの活性域はPH7近辺の中性域、サワー種を多くして生地を酸性状態にすれば解決するというのでその通りにすると何と解決!難問(私には)があっけなく解けました。
さて、これで二つの課題は解決されましたがYさんの意見は”個性がなくつまらない”でした。しかしHiroseの事情としてまず品質の安定したビアブロートを商品として設定することが優先されるのでライ麦サワー種と生イーストに頼り8月頭に商品設定しました。7月に納めた分は全て再配達しました。
並行してイーストに頼らない個性のあるビアブロートの追求を進めます。個性が強いと飽きに繋がるので”飽きのこない個性”を追求すべくクラフトビールの可能性を追求しようと考えます。まさに岐阜にはクラフトビールを作る醸造所がありこれを使ってみようと考えました。幸いこのビールはビール酵母を濾過も加熱殺菌もしていないためパン酵母の環境に適しています。ビールの種類がいくつもある中でその中の一つについて4種類のパンを作ってみました。

当初Hiroseのパンシリーズの一つとして小麦サワー種を使いイーストを使わないビアブロートを設定しました。しかし毎回品質が安定しないため8月頭からライ麦サワー種と生イーストを使ったビアブロート1-27A(表の左)としました。今回のテストでは小麦サワー種を使いイーストを使わない①から④のサンプルを評価します。粉と水分を混ぜる工程は3回あります。小麦サワー種、前種、そして本捏ねの3回です。ここで本論から外れますが前種について説明します。小麦全粒粉と水を同量混ぜその中に0.02%の少量のイーストを入れて酵母を増殖させたものが前種です。いわゆるポーリッシュ種です。水の代わりに酵母入りビールを使いイーストを一切入れずに発酵するか確認したところベルギービール(シメイブルー)でも岐阜ビールでも目視での変化はまったくありませんでした。ビールに残った酵母だけでポーリッシュは成立せず、ここにわずかな(0.02%)生イーストを加えると酵母は活発に増殖します。
さて、粉と水分を混ぜるプロセスが3回あるわけですが3回ともビールを混ぜたサンプルが③、本捏ねの工程のみにビールを使ったサンプルが①です。表中”表面処理”とあるのはパンを焼く前と後にビールを表面に塗るもので色合いだけではなく香りも期待したものです。①に対して塗ったものが②、③に対して塗ったものが④となります。
”発酵が弱くて膨らまない”という課題は解決し、次の課題である”飽きのない個性”を持ったパンに仕上がるかどうか、今回のテストだけでは結論は出せません。さらに追及は続きます。











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